世界から学ぶリーフタンク
海水を飼育するうえで大きな目標となるのが、サンゴ飼育でしょう。
近年サンゴは深く研究され、飼育方法が科学的に証明され始め、今もなお研究は進んでいます。
このことは、アクアリウムの生物の中では非常に稀で、それに伴い、適正水質の数値化や育成に必要なスペクトルを持つ光、様々な餌、自然に近づけた水流ポンプ、それを組み込んだシステム水槽など多くの商品が欄列しています。
しかし現状でも多くの方が挫折し、ネット上に難しいと評価されるのは十数年以上昔から変わらない状態です。
ここまで商品、情報が更新されているのになぜサンゴに対しての評価が変わらないのでしょうか。その謎を紐解くきっかけになっていただけると幸いです。
Ⅰ、サンゴの栄養
サンゴの育成(成長)に必要なものと言えば多くの人が、『光』と答えるでしょう。
では実際サンゴはどのように栄養を摂取するのでしょうか。
大きく分けて2つの方法があります。
1、褐虫藻の光合成による摂取
サンゴの多くは褐虫藻という藻類を体表部の中に共生させています。
この褐虫藻は光合成によりCO2を吸収し、栄養(NO3、PO4)の吸収とともにサンゴにエネルギー(炭水化物)を供給します。
2、ポリプによる捕食
サンゴはそれぞれ大なり小なり口を有するポリプを持っています。これによってプランクトンなどのエサを捕まえ食します。
この栄養摂取は、LPS(オオバナ、ハナガサ等)で約40~80%、SPS(ミドリイシ等)で約20~30%といわれ、NFS(イボヤギ、キサンゴ等)ではほぼ100%と言われています。
※育成に関して光りだけに頼りSPSにエサをあげないことは20%以上も損をしていることとなります。エサをあげなくてもよいとされるサンゴ(soft含む)は「無くても飼える」ではなく、「耐えている」と表現した方が良いのかもしれません。
また、さまざまな栄養の獲得ができ、色を揚げ、成長速度を速め、組織の増強につながります。
この二つの方法を駆使しサンゴは生活をし繁栄をしています。
ではなぜいくら設備を整えても、リーフタンクは難しいとされるのでしょう。
Ⅱ、栄養源の生成と除去
「エサを与える」と「水をキレイに保つ」、このふたつは相反する事でこれが飼育の難しさの要因のひとつではないでしょうか。
しかしながら、どちらも重要な事であり、 このバランスが非常に大切な事柄のひとつとなります。
アクアリウムを経験しているユーザーであれば汚れ(栄養源)は分解されアンモニア/亜硝酸/硝酸塩となることは周知のことと思います。
REEFTANKではこの硝酸塩は天敵でありかつ必須栄養素でもあるのです。
ここが「バランスが重要」である事の理由です。
栄養塩はサンゴにとってはもちろん海藻やコケ、褐虫藻や石灰藻などにも必須栄養素となります。
そのため、多量に存在すればコケだらけの水槽となり、0になってしまえば栄養塩を要求するすべての生物は衰退します。
この栄養塩の量を、〈図2〉のような発生源に対して設備(スキマーやRO)や生物(吸収させる)、科学的方法(窒素源や吸着ろ過)によって調整する必要があります。
ここで重要となるのが生き物の優位性です。
Ⅲ、タンク内での生物の優位性(栄養源の奪取の優位性)
説明のために藻類を以下の2種類に分けて説明させていただきます。
これは学術的な名称ではありませんが、アクアリストの私たちが判別するために分類することにします。
まず、
・海水下で根、茎、葉等を有する藻類のことを「高等藻類」とします。
ex.ウミブドウ、ジュズモ、タカノハズタ…
そして、
・海水下の茶ゴケ、緑ゴケ、望まないコケ、ATSによって発生させたコケを「下等藻類」とします。
下等藻類は栄養消費スピードが高等藻類よりはるか早く(100倍以上)、成長速度も圧倒的です。また下等藻類は細胞分裂と種(胞子)により旺盛な繁殖力をもっています。
しかし、ほとんどの高等藻類は種(胞子)による繁殖で大きく成長はするものの、分裂等で大幅な繁殖はできません。 より高等生物のサンゴは消費スピード、繁殖スピードともにそれらを大きく下回ります。
では1つのREEFTANKに、(同一の栄養条件を維持した場合)
「多量の下等藻類、少量の高等藻類、少量のサンゴ」
この場合、タンク内で何が起こるのでしょうか。
「少量の下等藻類、少量の高等藻類、多量のサンゴ」
この場合はどうでしょうか。
前者は、下等藻類が多く繁殖し高等藻類は衰退、サンゴは退色していきます。
後者は、一部サンゴは順調に成長、一部のサンゴ、高等藻類は弱々しくもゆっくり成長、 下等藻類は急速に成長を続けます。
重要なのは閉鎖的なタンク内で栄養奪取スピードが下等>高等≧サンゴであることです。
すなわちサンゴは栄養塩の奪い合いにスピードでも数でも下等藻類に競り負け、劣勢にたっているのです。
またこの状態(下等藻類の大量繁殖)は、夜間に酸素濃度を低下させPHが低くなるリスクも持っています。(PHの低下はサンゴポリプの石灰化を阻害し生育不良を起こします)
Ⅳ、栄養状況の判断
下等藻類が多く繁殖する。コケだらけになる。これは栄養塩すなわち硝酸塩が多いことを示します。
その状況を知るのに重要な判断材料となるのが「ライブロック」です。まめに掃除している水槽でも、「ライブロック」を観察すると見えてきます。ライブロックに望まぬコケがついている場合、多くの場合でサンゴの状態が芳しくありません。
とにかく下等藻類は徹底して排除してください。
0≒下等藻類<高等藻類≦サンゴ
上記、図式を成立させればいいのです。
そのために多くの機材は不要です。
実際、アメリカを始めとする大規模なフラグによるサンゴ養殖場はサンゴが多量に入っており、サンゴフードも十分に与えています。そんな中でリフジウムや炭素源のシステムなどは存在しません。にもかかわらずコケが出てないのです。なぜでしょう。
生成と除去のバランスが良い、サンゴが優位的に栄養を吸収しているからです。
しかしながら、バランスをとるのはやはり難しいのが現状です。
例えば、多量の下等藻類があるにもかかわらずNO3、PO4が検出されない。このような状況も見られます。
この場合、多量の下等藻類が瞬時に栄養源を吸収し試薬には検出されない状況です。もちろんサンゴはうまくいきません。
難しさを軽減させる、助けてもらうそのために様々な機材があるのです。
近年、機材 “これを取り付ければ飼える”と言ううたい文句が先行し、サンゴが飼えるかどうかは二の次になっているように感じます。
〈図2〉のように栄養(汚れ)の除去方法は様々存在します。その機材が絶対ではないのです。スキマーが小さければ物理ろ過でとればいいのです。
サンゴを増やすのも手です。海藻リアクターや炭素源も方法です。水道の水質状況によってはRO水を使ってください。もちろん機材同士の相性はあります。飼育者の水槽に対しての向き合い方でも変わるでしょう。今の水槽に飼育者にあった方法を模索し、ぜひプロフェッショナルに相談してみてください。
Ⅴ、サンゴの色揚げ
サンゴの色は褐虫藻と蛍光タンパクのみで構成されています。
褐虫藻は太陽光下で観察できますが、ブルーライトやUVライトの下では見ることができません。 逆に蛍光タンパクは太陽光下では見ることができず、ブルーライト、UVライト下で観察できます。
ブルーライトやUVはサンゴの組織を損傷させます。そのため、サンゴはポリプからの摂取や褐虫藻から供給されるエネルギーを利用し蛍光タンパクを生成し保護しようとします。
これが「色が揚る」ということです。
上記写真はReefRaftCanada fecebookより出典
UVと比較しブルーライトはポリプを強化し、より多くの蛍光タンパク質を簡単に生成できます。
それはUVによるサンゴの損傷は大きすぎる事に由来します。
自然下でのUVは水深10mほどで全てカットされてしまい、浅い水域のミドリイシも含め約80%以上のサンゴはUVのダメージを受けません。
この事はほとんどのサンゴはUVに対する抵抗力が少ないということが言えるでしょう。
褐色で蛍光色の少ないサンゴは過度の光合成、栄養摂取により褐虫藻が多く繁殖した結果です。
適正な栄養濃度を維持しUVではなくブルーライトで育成することが望ましいでしょう。
この方法はアメリカ及び世界市場では一般的となっています。
Ⅵ、サンゴの順化
上記で、褐色になったサンゴという話をしましたが、購入すぐのサンゴに変化が生じることは珍しいことではありません。
実際、野生のサンゴは人間の作り出した光にはすぐ対応できません。ほとんどは茶色くなりますが、水槽の環境が良いにも関わらず導入後すぐ先端の色が白くなったり、ポリプが開かなくなったりという症状がみられます。
野生のサンゴがLEDに対応するには時間がかかりそれは1日かあるいは1カ月以上かかることもある。これを「順化」といいます。
新しいサンゴは温度をしっかり管理した環境下で低照度から高光度集中光までゆっくりと調整することをお勧めします。
褐虫藻がサンゴから離れ色褪せていく(フェードアウト)は強い照度か温度の変化によって引き起こされることがわかっています。一度フェードアウトしたサンゴは、回復させるのに褐色化するより遥かに時間がかかります。
SSC(ストロベリーショートケーキコーラル)は順化するのに数週間必要としていることは有名な話です。
野生のサンゴは1,2カ月で茶色になりますがフェードアウトしたサンゴのように回復に時間はかからず、その後色を取り戻すのは簡単です。
Ⅶ、ミネラルについて
そもそもミネラルとは栄養素として必要な無機塩類を言います。
様々な生理的影響、組織の反応を円滑に働かせるための補助成分となり、通常体内で生成することができないため外部からの摂取が主となります。
しかしながら海水生物は海水に豊富にミネラルが含まれているためほとんどの無脊椎動物は体内にストックせず海水から摂取しています。それがゆえ、欠乏すると重大なトラブルとなり育成不良や最悪の場合死を招くため、海水中に含まれるミネラル量は非常に重要になります。
ミネラルは海水下では必須元素と微量元素の二つに分けられます。
必須元素のうち、Mgは最も重要なパラメーターの一つとなります。
多くはKH、Caに注目されがちですが、Mgは海水内に不足(1000ppm以下)するとKH値、Ca値は正確な値にはなりえません。
KH、Caの結晶化をコントロールする作用があり、不足するとKHは沈殿し思った濃度にあげる事ができません。
数値が上がらないからと、KH、Caが過剰になった場合、飽和状態(溶け込む量の限界)になり水替えが必須となります。
また、Caが500ppm以上の場合KHはいくら追加しても数値は上昇せず目的とした結果が出る事はないでしょう。
微量元素は+イオンと-イオンを含む大きなグループです。
タンク内でゆっくりと消費されるミネラルで水替えをしない水槽には添加が必須となりますが、通常の定期的な水替えによって供給され数値を回復することができます。
高密度のサンゴ養殖のタンクでは成長や色揚げに微量ミネラルを添加することが必要です。
また、微量元素の中には、バクテリアにも必須成分で有名な鉄、殺菌抗酸化作用を持つヨウ素、PH安定させるホウ素など水質に対しても多くの作用を及ぼすものが多く含まれています。
このようにさまざまな要因がサンゴの状態を左右させます。サンゴはモノを言いません。
日頃の観察とちょっとしたひと手間が大きなファクターとなり、皆様の水槽を大きく変化させることと思います。
愛情をもって接してみてください。サンゴは必ず答えてくれるでしょう。
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